【基調講演】東北が東北であり続けるために
─質で選ばれる地域を目指す、国際基準の活用とは
「持続可能な観光地域づくり実践的シンポジウム in 仙台」の幕開けを飾ったのは、一般社団法人JARTA代表理事の高山 傑による基調講演です。
本シンポジウムのテーマである「観光を地域マネジメントの手段として捉え直す」という核心に迫りながら、国内外の具体的な事例と自身の経験を交え、これからの地域づくりに求められる視点と実践的なアプローチが提示されました。
■ 観光は“目的”ではなく、“地域課題を解決する手段”
講演の冒頭で高山は、「観光客を増やすこと」や「施設整備」を目的としてしまいがちな現状に警鐘を鳴らします。
本来、観光は地域が抱える課題を解決するための“手段”であるべきだと強調しました。

観光を地域マネジメントの手段として捉え直す
例えば、観光によって外部から人が訪れることで、医療や教育といった生活インフラが整備される地域や、野生動物を狩猟対象から観光資源へと転換し、保全と経済価値を両立させている事例を紹介。観光は経済・環境・社会の三側面に価値をもたらす可能性を持つといいます。
また、オーバーツーリズムについても、単なる観光客数の問題ではなく「地域が望まない形で利用されること」が本質であると指摘。ゴミ問題や住民生活への影響を例に挙げながら、「観光客の満足度だけでなく、住民の満足度(受容性)を測る視点が不可欠である」と述べ、地域の文化や暮らしを尊重する観光倫理と明確なルールづくりの重要性を訴えました。
さらに、「量から質へ」の転換の必要性にも言及。与論島の清掃活動のように、地域住民の主体的な行動や意識そのものが魅力となり、それに共感する来訪者を惹きつける——そのような“質で選ばれる地域”への転換こそが、持続的な価値創造につながると述べました。
■ 実践へ導く指針:「東京宣言2030」と「点・線・面モデル」
理念を実践へと落とし込むための具体的なアプローチとして、高山は2つの重要な枠組みを提示しました。
ひとつは、「サステナブルツーリズム東京宣言2030ビジョン」です。
この宣言では、①持続可能な経営、②地域経済・社会への貢献、③文化保護、④環境保全、⑤顧客満足とネットワーク拡大、⑥国際基準・認証の活用という6つの指針が示されています。高山はこれを“実践を誓う行動宣言”として位置づけ、参加者一人ひとりの主体的な取り組みの重要性を強調しました。

宣言の読み上げも行われました。
もうひとつが、「点・線・面」の連携モデルです。
宿泊施設などの事業者を“点”、旅行会社などの流通を“線”、地域全体やDMOを“面”と捉え、それぞれが連携することで初めて持続可能な観光が成立するという考え方です。どれか一つでも欠ければ、地域全体としての持続可能性は実現しない——この“全体最適”の視点が共有されました。
■ 国際基準と、日本らしいサステナビリティの融合
講演の後半では、グリーンキー、トラベルライフ、ブルーフラッグなどの国際認証の活用について言及。
これらは「何を実践すべきか」を明確化し、行動変容を促す有効なツールであり、その“取得プロセス自体”にこそ大きな価値があると説明しました。
一方で、単に海外基準に合わせるだけでは不十分だとも指摘。
日本の教育や文化に根付く「掃除」「助け合い」「倫理観」といった価値観こそが、世界に発信し得る強みであり、それらを再認識し、観光の文脈で活かしていくことの重要性が語られました。
さらに、文化財の過度なライトアップや野生動物への餌付けなど、短期的な観光価値が長期的な自然・文化の毀損につながっていないかを常に問い続ける必要性にも言及。「本当に地域のためになっているのか」という視点を持ち続けることの重要性が強調されました。
■ 「地域のための観光」へ—JARTAが目指す未来
講演の締めくくりとして高山は、「地域のための観光」を軸に据えることの重要性を改めて提示しました。
行政・事業者・住民が認識を共有し、それぞれの役割を明確にしながら、住民の幸福度を最優先とした施策を地域主導で実装していく——その積み重ねこそが、これからの持続可能な地域づくりの鍵となるといいます。
東北が東北であり続けるために。
その答えは、“量”ではなく“質”で選ばれる地域へと進化することにある——本講演は、その具体的な道筋を示す示唆に富んだ内容となりました。
